トップ>Triumph Spitfire MK4 分解編>>ディストリビュータ分解。進角装置ってすごい!(2003年7月)

☆「点火装置」はよく考えられたアナログ自動装置
デスビを分解しました。
錆びと汚れを研磨していくと、中から綺麗なスチールと、"Delco Remy"の文字が現れました。
-AC Delco-
欧州の電装品の老舗メーカーですね。日本の"デンソー"のようなもんでしょうか?
デスビキャップを外すと、中にはポインタとコンデンサを組み込んだプレートがはめ込まれています。
ポイント調整は学生時代には自分でやっていたので、この部分の構造までは知っていましたが、こっから先までは分解したことがありません。
ポインタは混合気にプラグで点火するタイミングを決める役割がありますが、 この「点火のタイミング」にはちょっとした仕掛けがしてあり、その機構は「点火装置」という電子的なイメージとは異なり実にアナログなもので、私にとっては大変興味深いものでした。
Spitfire1300MK4の1972年製本国仕様の点火時期は上死点前8度です。
これはピストンが最上部に達する少し手前(クランクシャフトの回転角度で8度)で点火する、ということを意味しています。
なぜ上死点の少し前で点火するかというと、混合気は点火されてから燃焼室の中に燃え広がるまでに若干の時間がかかるからです。(この炎が伝わる速度を"火炎伝播速度"というそうです)
上死点で点火してしまったのでは、炎が燃焼室に燃え広がる前にピストンが下降を始めてしまい、爆発のエネルギーを最大限にピストンに伝えることができないからです。
この「点火のタイミング」が下記のふたつの要素によって自動的に変わるようにするための仕掛けが「進角装置」と呼ばれるものです。
・エンジン回転数(ガバナー進角装置)
・混合気の供給量(バキューム進角装置)

オイルにまみれ、錆に覆われたディストリビュータ 錆を落とすと中から綺麗なスチールとメーカー名が・・・
☆なぜエンジンの回転数で点火時期を変える?
よく考えて見ると、エンジンの回転数が1000rpmの時と3000rpmの時とでは当然、シリンダの中を上下するピストンの移動速度が違います。
一方で、点火された混合気が爆発する際、火炎伝播速度はピストンの上下速度に関わらず一定です。ということは、回転速度が速くなる(=ピストンが上死点に向かって上がってくる速度が速くなる)と、炎が燃焼室内に燃え広がる前にピストンが上死点に達してしまう、という結果になります。
このため、回転数が上がるとそれに合わせて点火時期を少し早めてやる必要があるわけです。この仕掛けを実現するための装置が「ガバナー」です。
画像のように、ポインタのプレートを外すと、中に見えるのがそうです。
う~む、これがそうか・・・
ちょっと感動・・・
デスビの中心軸のドライブシャフトはカムシャフトと繋がっており、エンジンの回転に合わせてこの軸が回転します。回転が速くなると、ガバナーに組み込まれているオモリが遠心力で外側に移動します。 その動きがポインタのプレートを少しだけ回転させるようになっています。
それによって、点火時期が微妙に早くなり、ピストンの動きに遅れることなく、適切なタイミングで混合気に点火できる、というわけです。
この機構を考えた人はエライ!ほんと、頭いいですよねぇ、関心しちゃいます。
ディストリビュータの中心部には「進角装置」が鎮座
☆なぜ混合気の濃度で点火時期を変える?
アクセルをあまり踏み込んでいないときは空気流入量が少なく混合気も薄く、燃焼しにくい状態にあります。
混合気が薄いと火炎伝播速度は遅くなり、燃焼室に炎が広がるのに時間がかかります。そのため、点火タイミングも少し早める必要があります
そこで、空気流入量が少ない時はインマニの中の負圧が大きいことを利用し、この装置の中のダイアフラムがレバーを動かす仕掛けになっています。
その動きがポインタのプレートを少しだけ回転させ、それによって、点火時期が微妙に早くなる、という訳です。

これら点火時期に関する機構は、もちろん現在ではほとんど(すべて?)電子化され、ポインタなどという機械は過去の遺物となってしまいました。
電子化されてしまった装置は、私のような素人のみならず、普通の自動車整備屋さんであってもほとんどその中身を知ることも触ることも必要なくなっています。
故障したらそっくりアセンブリ交換。
工業技術の進歩ってすばらしい?旧車バンザイ!
矢印の先の部分がバキューム進角装置です